引越しの際、市区役所で行う手続きのなかで「国民健康保険の住所変更」があります。ただ、とくに若い人の場合は、役所関係の手続きに不安を感じるかと思います。
まず引っ越す前に、旧住所地の役所で国民健康保険の「脱退手続き」が必要になります。さらに引越しをしたあとは、新住所地の役所で国民健康保険の「加入手続き」を行います。ただし、同一市内での引越しであれば、「住所変更」のみで済みます。
このページでは、引っ越すときの国民健康保険の手続きについて詳しく説明します。引越しの手続きは何かと多くなりますが、ここでの説明をしっかりと理解し、頭のなかを整理しておきましょう。
国民健康保険とは
国民健康保険とは、社会保険または共済組合保険に加入していない「第1号被保険者」が加入する保険のことです。たとえば、個人事業主やフリーランス、会社に勤めていない人が国民健康保険に加入することになります。
国民健康保険に加入しないと、医療費を全額負担しなければいけなくなります。病気やケガなど、いざというときに慌てないないよう必ず加入してください。ただ、加入すれば、保険負担分の医療費は払い戻しされますから心配いりません。
「自分は健康だから国民健康保険に入る必要はない」「保険料がもったいないから加入したくない」と考える人もいるかもしれません。しかし、社会保険などに加入していない場合は、国民健康保険に加入することは「義務」です。また、国民健康保険料は「税金」という側面もありますから、必ず加入しなければいけません。
引越しのときに必要となる国民健康保険の手続きは3種類
引越しをするときには、国民健康保険の住所変更を行う必要があります。なぜなら、国民健康保険は住んでいる自治体で加入するものだからです。
したがって、「別の市区町村に引っ越す場合」か「同じ市区町村内に引っ越す場合」で手続きの内容が異なります。まずは、その違いについて整理しておきましょう。
別の市区町村に引っ越す場合
手続きの種類 | 届出場所 |
資格喪失手続き | 旧住所地の役所 |
加入手続き | 新住所地の役所 |
この場合、住所地を管轄している自治体が変わるため、一度、国民健康保険を脱退し、引越し先の役所で新たに加入することになります。資格喪失手続きは「転出届」のタイミングで、加入手続きは「転入届」のタイミングで行うのが最もスムーズです。
同じ市区町村内に引っ越す場合
手続きの種類 | 届出場所 |
住所変更 | 現住所の役所 |
この場合、住所地を管轄している自治体は変わらないため、国民健康保険の手続きとしては「住所変更」のみになります。この手続きは「転居届」のタイミングで行うとスムーズです。
このように、どこへ引っ越すかによって国民健康保険の手続きは変わります。あなたがどちらの手続きをしなければいけないのか、ここでしっかり理解しておきましょう。
下記では、「資格喪失手続き」「加入手続き」「住所変更」について、それぞれ詳しく説明します。
国民健康保険の「資格喪失手続き」の手順と必要書類(引越し前)
まずは、旧住所地で加入している国民健康保険を脱退しなければいけません。これを「資格喪失手続き」といいます。
手続きの期間は、「転出後14日以内」となっています。しかし、引越したあとで、前に住んでいた地域の役所に出向くのは面倒です。ですから、引越し前に、「転出届」といっしょのタイミングで資格喪失手続きを終わらせておくと良いです。
国民健康保険の資格喪失手続きをするときは、以下のものが必要になります。
【資格喪失手続きの必要書類】
本人または同一世帯の人が申請する場合
- 国民健康保険被保険者資格喪失届(役所に置いてあります)
- 国民健康保険証
- マイナンバーカードまたは通知カード
- 印鑑
- 高齢者受給者証(該当者のみ)
代理人が申請する場合
- 本人の身分証明書のコピー(運転免許証、パスポート、マイナンバーカードなど)
- 本人の国民健康保険証
- 委任状(本人の署名・押印が必要)
- 代理人の本人確認書類
- 代理人の印鑑
国民健康保険から一旦脱退することになるため、手続きのときに保険証は返さなければいけません。家族で引っ越す場合は、全員分の「保険証」「マイナンバーカードまたは通知カード」が必要になります。
前述のとおり、資格喪失手続きは「転出届」といっしょのタイミングで行うとスムーズです。ただし、この場合、引越し先で国民健康保険に加入するまでは未加入の状態になります。「保険証が手元にないのはどうしても困る」という人は、引越し先で新たに加入したあとで資格喪失手続きをすることもできます。
国民健康保険の資格喪失手続きを郵送で行う
しかしながら、「忙しくて役所に行く時間がない」という人もいると思います。また、「引越したあとで資格喪失手続きを忘れていたことに気づいた」というケースも考えられます。
このような場合は、資格喪失手続きに限って「郵送」で行うことができます。その際、以下の書類を今まで住んでいた地域の役所に送ります。
郵送で資格喪失手続きをするときの必要書類
- 国民健康保険証
- 国民健康保険被保険者資格喪失届(各自治体ホームページよりダウンロード・印刷可)
- 本人の身分証明書のコピー(運転免許証、パスポート、マイナンバーカードなど)
これらの書類を用意すれば、郵送での手続きができます。ただ、転出届の申請もしなければいけないため、できれば役所に行って一緒に済ませておきましょう。
国民健康保険の「加入手続き」の手順と必要書類(引越し後)
引越したら、新住所地の役所で新たに国民健康保険に加入します。
手続きの期間は、「引越した日から14日以内」となっています。これは転入届の期限と同じになります。ですから、「国民健康保険の加入」と「転入届」はいっしょに手続きすると良いです。なお、どちらの手続きも「郵送」で行うことはできません。
国民健康保険の加入手続きに必要な書類は、以下のとおりです。
【加入手続きの必要書類】
本人または同一世帯の人が申請する場合
- 転出証明書(転出届の際にもらえる書類)
- 本人の身分証明書(運転免許証、パスポート、マイナンバーカードなど)
- マイナンバーカードまたは通知カード
- 印鑑
代理人が申請する場合
- 転出証明書(転出届の際にもらえる書類)
- 本人の身分証明書のコピー(運転免許証、パスポート、マイナンバーカードなど)
- 本人のマイナンバーカードまたは通知カード
- 委任状(本人の署名・押印が必要)
- 代理人の本人確認書類
- 代理人の印鑑
保険料を口座振替で支払う場合
- 指定口座の情報(通帳またはキャッシュカード)
- 銀行印
これらの書類を役所の窓口に提出すれば、新住所地で国民健康保険に加入できます。
引越し前に国民健康保険に加入していた場合は、転出証明書に「国保・有」と書かれているはずです。そのため、転入届を提出するときに係員から国民健康保険の案内があるはずです。
一般的には、後日、郵送で保険証が送られてきます。ただ、本人または世帯主が手続きをした場合は、その場で保険証がもらえる自治体もあります。
保険料の支払いは、口座振替を希望することができます。その場合は、手続きのときに通帳や銀行印もいっしょに持っていきましょう。
なお、現金払いを希望する場合は、後日、新居に納付書が送られてきます。納付書には「支払い期限」が書かれていますが、払い忘れのないように注意してください。
国民健康保険の「住所変更手続き」の手順と必要書類(同じ市区町村内に引っ越す場合)
同じ市区町村内に引っ越す場合、住民票を住所変更する必要があります。これを「転居届」といいます。国民健康保険においても、これと同様の手続きを行います。
この場合、管轄の自治体は変わらないため、国民健康保険の「脱退・加入手続き」は必要ありません。ただし、国民健康保険の「住所変更手続き」をすることになります。この手続きは、市区町村が変わる場合と比べれば簡単です。
手続きの期間は、「引越した日から14日以内」となっています。これは転居届の期限といっしょですから、同時に終わらせておきましょう。
国民健康保険の住所変更に必要な書類は、以下のとおりです。
【住所変更の必要書類】
本人または同一世帯の人が申請する場合
- 国民健康保険証
- 本人の身分証明書(運転免許証、パスポート、マイナンバーカードなど)
- マイナンバーカードまたは通知カード
- 印鑑
代理人が申請する場合
- 本人の国民健康保険証
- 本人の身分証明のコピー(運転免許証、パスポート、マイナンバーカードなど)
- 本人のマイナンバーカードまたは通知カード
- 代理人の本人確認書類
- 代理人の印鑑
これらの書類を役所の窓口に提出すれば、国民健康保険の住所変更は完了です。ちなみに、郵送での手続きはできません。
一般的には、後日、郵送で保険証が送られてきます。ただ、本人または世帯主が手続きをした場合は、その場で保険証がもらえる自治体もあります。
国民健康保険料が未納の場合はどうなる?
過去に保険料の未払いがあっても、引越し先で国民健康保険に加入することはできます。
ただし、未納分は請求されるため、必ず支払わなければいけません。その場合、未納分の保険料は「一括払い」か「分割払い」を選べます。まとめて支払えない場合は、役所の係員に相談してみましょう。
後日、滞納していた分の納付書が新居に送られてきます。これは本来の保険料とは別に支払わなければいけないため、忘れないように注意してください。
なお、払い忘れてしまった場合は「督促状」が送られてきます。それに従って支払えば問題ありませんが、無視をしていると「財産の差押え」などの処分になってしまいます。
ちなみに、保険料の未納には「時効」がありません。いつかは必ず支払わなければいけませんから、早めに対処しておくことをおすすめします。
国民健康保険の未加入期間がある場合はどうなる?
前述のとおり、社会保険などに入っていない人は、必ず国民健康保険に加入しなければいけません。ただ、「保険料が払えない事情がある」「加入するのを忘れていた」などの理由から、国民健康保険に加入していない人がいるのも事実です。
国民健康保険には「加入義務」があるため、加入していない期間があっても、その分の保険料はさかのぼって支払う必要があります。ただし、これには時効があります。さかのぼって支払い義務が生じるのは「最長2年」です。
たとえば、5年前から国民健康保険に加入していなかった場合、5年分の保険料を支払うわけではありません。このケースでは、過去にさかのぼって2年分の保険料を請求されることになります。
また、国民健康保険に加入するのを忘れていて、6ヵ月が過ぎてしまった場合を考えてみましょう。このケースでは、加入していなかった6ヵ月分の保険料はすべて支払う必要があります。
このように、未加入分の保険料には時効があります。しかし、いずれにしても支払い義務は生じるため、早めに対処しましょう。分割での納付も可能ですから、一度に全額を払わなくても良いです。
ちなみに、未加入期間がある場合でも、引越し先で国民健康保険に加入することはできます。引越したあとですぐに社会保険に加入する予定がなければ、忘れずに国民健康保険への加入手続きをしておきましょう。
退職・転職に伴う引越しで国民健康保険に加入するときの必要書類
退職や転職が理由で引越しをする人もいるかと思います。それまで勤めていた会社で健康保険に加入していた場合、退職時に以下の書類をもらえます。
「社会保険の資格喪失証明書」または「雇用保険の離職票」
これらは、「会社の健康保険から脱退しましたよ」ということを証明するものです。
新しい職場で社会保険に加入する場合は、国民健康保険へ加入する必要はありません。上記の書類をこれから勤める会社に提出すれば、健康保険の手続きができます。
しかし、「退職した場合」や「転職先で社会保険に加入できない場合」は、引越し先で国民健康保険に加入しなければいけません。その際、以下の書類が必要になります。
社会保険から国民健康保険へ切り替えるときに必要な書類
- 転出証明書(転出届の際にもらえる書類)
- 本人の身分証明書(運転免許証、パスポート、マイナンバーカードなど)
- マイナンバーカードまたは通知カード
- 印鑑
- 社会保険の「資格喪失証明書」または「雇用保険の離職票」
社会保険から国民健康保険に切り替える際には、今まで勤めていた会社からもらう「社会保険の資格喪失証明書」または「雇用保険の離職票」が必要になります。これがないと国民健康保険に加入できないため、引越しでなくさないよう注意しましょう。
社会保険に加入している会社員の健康保険の手続き方法
それでは、社会保険に加入している人が引越した場合は、どのような手続きが必要になるのでしょうか。
社会保険は「会社で加入する健康保険」ですから、役所での手続きは必要ありません。住所が変わったときは、会社の人事担当または上司に引越したことを伝えましょう。住所変更の書類に記入することはあるかもしれませんが、やることはそれくらいです。そうすれば、会社が保険や年金の手続きをまとめて行ってくれます。
その際に、保険証や年金手帳を提出する必要はないです。もちろん、あなたが保険協会に出向いて手続きすることはありません。住所が変わっても保険証が新しくなるわけではないため、今までの保険証はそのまま使えます。
ちなみに、就職などで「国民健康保険」から「社会保険」に切り替えるときは、国民健康保険の資格喪失手続きが必要になります。
まとめ
ここまでの説明で、引越しをするときの「国民健康保険の手続き」について理解できたと思います。このことで重要なのは、以下のポイントです。
【別の市区町村に引っ越す場合】
- 旧住所地の役所で「国民健康保険の資格喪失手続き」をする
- 新住所地の役所で「国民健康保険の加入手続き」をする
【同じ市区町村内に引っ越す場合】
- 住所地の役所で「国民健康保険の住所変更手続き」をする
このように、「住んでいる地域を管轄する自治体」が変わるかどうかで、国民健康保険の手続きは異なります。これらの手続きは、住民票を移すのといっしょに行うことができます。そうすれば、手続きを忘れることもないですし、何よりスムーズです。
引越しにともなう手続きは何かと面倒に感じるかもしれません。しかし、どの手続きも重要ですから、「忘れていた」では済みません。ですから、役所関係の手続きはできるだけまとめて済ませるのが得策です。